言霊の幸わう国

雨女がゆく ~塩見縄手

 松江城を後にして、わたしは次は塩見縄手へと向かった。
 塩見縄手は松江城の内濠沿いにある通りで、かつては中級藩士の屋敷が並んでいたところだ。
 通りは今でも時代劇の撮影に使われると、堀川めぐりの船頭さんが言っていただけあって、町並みに趣があった。
 まずは小泉八雲記念館に立ち寄り、そのあと小泉八雲旧居、武家屋敷と、通りを順に辿っていった。

 わたしは旅先に誰かの旧居や武家屋敷があると、ほぼ必ず立ち寄る。
 誰かの生活した跡。それを見るのがすきなのだ。
 前出の松江城も同じと言えば同じなのだけれど、規模が大きすぎるのと身近さを感じないのとで、やっぱり庶民的な生活が垣間見られるほうが興味がわく。

 小泉八雲は最近ご縁があって、昨年夏に旅した熊本でも旧居を訪れた。
 久しぶりに大学の英語の授業で使った「ムジナ」の本を手にして懐かしく思ったり、彼の経歴をなぞるように読んだ。
 会ったことのない人なのだけれど、彼が生活していた部屋や愛用品を見ていると、妙に親近感がわいてくるのが不思議だった。

 今回特に心惹かれたのは、彼がおそらく毎日のようにすわっていた机とイスだった。
 彼は極度の近眼で、机の上のものに目を近づけるために特注の背の高い机を使っていた。
 旧居には、記念館にあったその机とイスのレプリカが実際に置かれていた場所にあり、自由に座ることができた。

 数人いる人たちをくぐり抜け、そのイスに座った。
 そして、胸の少し上あたりにくる机の上に手を載せた。
 その姿勢で左方向を見ると、きれいに手入れされた庭が見える。

 身長160センチの八雲が見た景色。
 少しイスから腰を浮かせてみた。
 
 ほんの一瞬、タイムマシンへの扉が開いたような気がして、思わずふふふっと笑ってしまった。
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by fastfoward.koga | 2008-02-13 21:21 | 旅行けば | Comments(0)