言霊の幸わう国

ホールド

 天気のいい1日だった。
 電車で出かけようと思っていたのに、外に出たとたん気が変わってベスパを走らせた。
 途中何度も見かけた気温の表示された電子掲示板は、おもしろいくらいどんどん数値を上げていった。
 26度の表示を見たところで、手や頬に感じる風の微妙な温度が懐かしいものを思い出させてくれた。

 日向と日陰で吹く風は違っていた。
 心地よい暖かさと冷たさ。
 空気に色が付いていたら、きっとマーブル模様だっただろう。
 60キロを少し超えた速さの中で、混じりきっていない両方の風は特別な感じがした。

 その風で思い出したのは、こどものころに行ったプールだ。
 汗を吸った洋服を脱いで、水着になって滑り込むように入ったプール。
 ほてった体温がするっと水へ移り、全身が水に馴染むあの感覚。
 体は覚えているのだなと思った。

 
 今日は1本、映画を見た。
 今週で終わるせいか、観客はわたしを含めて7人。
 がらがらの映画館の1番高い位置。
 他の人たちとは下のほうにいたので、ひとりで見ているようだった。

 恐らく、人とは違うツボにはまり感傷的になった。
 今ずっと人知れず抱えている思いがあって、そこをずどーんと射抜いてきたのだ。
 そのシーンを、もう1度見たいと思う。


 先日、封を切ったばかりの使い捨てコンタクトの調子が悪く、仕事の途中で外すことにした。
 メガネも持ち合わせておらず、裸眼で最寄り駅まで帰り、ニアミスで行ってしまったバスの背中を見送った。
 徐々に日が暮れ始めた駅前のバス停で、スピードを落として走る車のテイルランプを見ていた。
 いつもならなんてことのない光景。
 でも裸眼のわたしには、テイルランプが小さな花火のように見えた。
 いつもよりは、3倍ほど大きく見える光。
 大きな輪を描き、だんだん離れて消えていった。


 思うこと、感じることは、いくつもいくつもある。
 でも手に余るものは、ひとつもない。
[PR]
by fastfoward.koga | 2008-04-21 19:52 | 一日一言