言霊の幸わう国

旅跡  Ⅲ さすらう魂

 旅から帰り、緩く鋭く流れる思考の中で、しばらくひとり旅はいいと思っていた。

 旅の感想を求められてもとっさに言葉が出ず、喉に引っかかるそれを吐き出すのに、頭をフル回転させた。
 それを数回くり返し、周りが納得するセリフのような言葉を見つけ、口にした。
 それじゃあ全然足りないし、伝えられない、薄っぺらいとわかりつつ。

 燻る思い。
 灰色の塊を胸の下あたりに抱えた感じ。
 初めは、いつものように生真面目にどうにかしようと思ったけれど、やめた。
 肩から大きく腕を回し、投げた。
 もやもやは、きれいな放物線を描いて音をたてて池に落ちた。

 が、それも数日間。
 立ち寄った本屋で、どっさり旅雑誌を買い込んだ。
 まったく。懲りていない。


 車窓にどうってことのない田園風景を眺めながら、さすらっていると思った。
 あれが見たい、あそこに行きたいと電車を乗り継ぎながら、どこまでもこの時間が続いて、いつまでたってもお腹いっぱいになることなく永遠にこうしているしかないような気がした。

 見たいものも、行きたい場所も、みな止まり木。
 魂が求める安住の地ではなく、いつまでもあっちへふらふらこっちへふらふら、さまよい続けるのだと思った。
 そのことに気づいた足元は、深すぎて見えない崖っぷちだった。
 麻薬みたいに、キリがない。
 留まりたくても、そうすることはできない。

 朝7時30分に出る電車に乗り、弘前を目指した日。
 陽が傾きかけるまで、ほとんどの時間を電車の中で過ごした。
 眠いし、お腹もすいたし、喉も渇く。
 目的地へときもちは急ぐのに、電車はのんびり、東大館駅で20分以上停車した。
 気分転換にホームへ降り、自動販売機で午後の紅茶のミルクティを買った。
 それを手にして席に戻り、リュックの中から、途中にもらったカレーかきもちを取り出して食べた。
 ミルクティは冷たく、かきもちは絶妙な味だった。
 ひと息ついていると、電車は再び走り始めた。
 横長のシートの端っこに陣取り、ドア横の仕切りに頭を持たせかけながら思わず声に出して言った。

 あー、幸せ。

 わたしの目的は、目的地そのものではなく、目的地に向かうこと。
 さすらう自分に気づいてため息をつきながらも、そうしていることが1番安らぐ。
 悲しいかな、それは他人と共有しにくい。

 留まりたいけれど、留まれない。
 それなら、誰か捕まえておいてくれないものか。


 買ってきた雑誌を捲る。
 引っかかるのは、緑豊かな写真。
 話し相手のいない寂しさを感じながらも、今は人よりもとりあえず自然の中に身を投げたい。

 緑と白。
 怖ろしいほど背の高い巨木に、緑に囲まれた滝。
 ほらほら、写真を見るだけで、魂が呼ばれているような気がする。

 旅のあと、手入れしたリュックはまだ片付けていない。
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by fastfoward.koga | 2008-08-07 23:27 | 一日一言