言霊の幸わう国

旅跡  Ⅵ 魔物の住む場所

 旅をしながら、この場所はわたしの場所だと3度確認するという出来事があった。

 1度目は、山形の山寺。
 2度目は、山形だか、秋田だかを走っていた車窓の風景。
 3度目は、金木から五所川原へ戻る、これまた車窓の風景。

 山寺は、今回どうしても行きたかった場所のひとつだった。
 気温が高くなる前にと、山形駅を7時55分に出る電車に乗り、山寺駅には8時14分に到着した。
 山寺の愛称で親しまれる立石寺には8時から参拝できるとガイドブックに書かれたので、これ幸いと、まだ人もまばらな中、900段近い石段の1段目に足を乗せた。

 せっかちな性格が踏み出す1歩をあせらせ、さすがに休み休みしながらも、息を弾ませたまま行き急ぐように上りきった。
 途中、自分の息遣いを耳の外と中で聞きいていると、音がなくなったわけでもないのに世界がシンとしているような気がした。
 山寺という場所と、自分が、向き合った瞬間だった。

 なにがわたしの場所だと思わせたのかは、あえて考えていない。
 ただそこにいるときに、きもちが添う感じがした。
 山寺に鳴き声を響かす蝉のように。
 名残惜しくて、その場を去ることに後ろ髪を引かれた。
 まだ旅は続くというのに。

 あとの2度は、どちらも線路が真緑の田んぼの中を走っているときだった。
 視界が横長の田んぼの景色は毎日のように見ることはあるけれど、線路の両端を田んぼが取り囲んでいる縦長の田んぼの景色、それも緑がざざざざと音が聞こえてくるかのように風に吹かれている姿は衝撃的だった。
 ただの田園風景。
 でも、空いた車内の前、そして左右の窓のあちこちから見えるその景色に思わず泣きそうになった。

 原風景とも違う、なにか浚われてしまいそうな危ういもの。
 窓を開けたら、ひゅっと体ごと持っていかれそうな。
 そんな、吸い込まれそうなほど強いものに泣かされそうになった。

 今なら、浚われてもいいなと思う。
 浚われたら、あとはどこへ辿り着くのやら。
[PR]
by fastfoward.koga | 2008-08-10 19:54 | 一日一言