言霊の幸わう国

くるくる回る  風の通り抜ける寺

 突如、思い出したように夏の初めの旅について書く。
 前回はここまで書いてました → 


 ライトレールで富山へ駅に戻り、駅前で不審者のようにしばらくうろうろと歩きながら、昼からの行程を考えていた。
 うーんとひと声出したあと、よっしゃとJRの改札をくぐった。
 昨日思い残した高岡へ行くことにしたのだ。

 高岡へ向かう電車はちょうど出たあとで、ホームに立っているのはみな特急を待つ人たちだけだったようだ。
 完全復活していない胃におそばと、グリコのカフェオレなんてものを流し込んだせいで、わたしは少しきもち悪さを感じていた。
 ベンチで時計の針を見つめながら、じーっとこのきもち悪さに負けてホテルに一旦帰ろうか、治まるのを信じて我慢するか悩んでいた。

 そうやって頭の中で二者択一の天秤を、右に揺さぶり左に揺さぶりしていると、ホームに大阪行きのサンダーバードが滑り込んできた。
 業者の人が荷物を積み込もうと、専用のドアの前で立っている。
 その横に積み上げられたお茶のダンボールには、「7/2」と乱暴に書かれた日付が貼られていた。
 それを見て、初めて今日の日付を確認したような気になった。

 そうしてやっと天秤を揺らすのをやめ、高岡へ行くことを決めた。
 決めたら、あくびがひとつ出た。


 高岡駅へ着いたあと、気にかかっていた瑞龍寺へまっすぐ足を向けた。
 瑞龍寺は加賀二代藩主の前田利長公の菩提をとむらうために建立されたお寺で、中には利長公、利家公の石廟がある。
 前日見た白砂利と山門の写真に惹かれやって来たけれど、中に入って驚いた。
 芝生の緑がまぶしい。
 想像していた白砂利とはまた違った景色が、そこにはあった。

 開放感のある建物の間を、さーっと風が通り抜ける。
 駅から歩いてきた分の体の熱が、気づくと冷めていた。

 1番奥にある法堂で、お抹茶をどうですかと誘われ、せっかくなのでと一服することにした。
 こちらからお墓(石廟)が見えるんですよと、緑のもみじが鮮やかな席へと招かれ腰を下ろした。
 ほーっとひと息つきながら、お茶をたてて下さる2人の上品なご婦人に富山の見所をいろいろと教えてもらった。
 氷見に、冬と春の立山連峰。
 それはもうすごくいいわよと言われるご婦人の表情と言葉に胸をわくわくさせ、じゃあまたその時期に来ますと話したり、風にもみじが揺れるのを見たり、そこでゆったり過ぎる時間を楽しんでいた。
 ちょうどいくつかの団体さんの隙間だったようで、静かだったのが幸いだった。

 が、その静寂を遮るように後ろから大声がした。
 何ごとかと思ったら、酔っ払った男性が土足で法堂へ上がり込んできた。
 その人は、オレは××だ、寺の誰々を呼べと叫び、畳を掌で威嚇するように何度も打った。
 それまでわたしが楽しんでいた心地よさが、それで一気に崩されてしまった。

 どうしたものかとご婦人のひとりが対応されたものの埒があかず、そろそろ席を立とうかと考えていたわたしはタイミングを逃してしばらくそこに座っていた。
 酔っ払いは眠ってしまったのか、しばらくすると静かになった。
 行く末はどうなるのか気になりつつも、お茶のお礼を言って席を立つと、ちょうど入れ替わりに裏のほうから警察官が3人法堂へ入ってきた。参拝客がまだまだ来ることを考え、こっそり呼んでいたようだ。 
 それを見てもう大丈夫だなと安心して、わたしは禅堂へと向かった。
 とんだ珍事に巡りあったけれど、そこは正座しているとほんとうにきもちがシンとする、とてもいい場所だった。

 お寺の広々とした敷地の中を、風が何度も通り抜ける。
 そのたびに緑の芝生が波を作る。
 不謹慎ながら、その様子を横目に昼寝でもしたいくらいのきもちのよさだった。
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 瑞龍寺を出たあと、前田墓所までぷらぷらと歩いた。
 ちょうど墓所の近くにある小学生たちの帰宅時間だったようで、ランドセルを背負った何人ものこどもとすれ違った。
 墓所には蓮の花が咲き始めていて、薄暗い木々の生い茂る中、その白さがほわんと光って見えるようだった。
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 少し傾いた陽をまともに受けながら、思い残すことはないと高岡駅へ向かった。
 急がず、慌てず。改札を通り、階段を上がる。
 高架になった廊下を歩いていると、ドアの閉まる音が先のほうで聞こえた。
 もしやと窓から顔を覗かせると、富山と書かれた電車が今まさに走り出そうとしているところだった。
 電車のいなくなったホームで迷う。
 さっき聞いた氷見に行こうか、どうか。
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by fastfoward.koga | 2008-09-11 17:10 | 旅行けば | Comments(2)
Commented by tabikiti at 2008-09-11 17:30
コガさんの写真はやっぱりええなー

私はせーいっぱい生きた人間は風になれると信じています。
何度も通り抜けた、風はんも気持ちよかったやろなー
Commented by fastfoward.koga at 2008-09-11 21:37
太美吉さん、こんばんは。
やっぱり奇特な人だ、太美吉さんは(笑)。

そうですね。風もきもちよかったことでしょう。
風が心地よく吹き抜けるところは、きもちも伸びをしますね。