言霊の幸わう国

くるくる回る  好奇心の行く末

 迷うこと5分。
 一旦富山行きのホームに下りていたわたしは、ベンチから立ち上がり1番端にある氷見線のホームへ向かった。
 鉄子の地が騒いだ。
 いや、というよりは好奇心に似た冒険心だったか。

 ホームを吹き抜ける風の中で、今日は誕生日だということを認識し、こんなことをしているとあのころの自分は思っていなかっただろうなと、少し笑った。
 他の乗客の人たちと同じようにぶらぶら、ぼんやり待っていると、電車がホームに入ってきた。
 混みそうにない前方の車両に乗り、陽の当たらない窓際の席に座った。

 窓際が、大すき。
 電車でもバスでも、太陽の位置を考えて陽の射さない側はどちらか考えて座る。
 目的地はここからどっちの方角で、今は何時だから太陽はこちら側から射す。じゃあ、こっちに座るほうがいい、といった具合に。
 そしてそのときいくつになっても歌うのは、「西から昇ったおひさまが 東へ沈む」。
 これを歌わないと、太陽がどっちから昇るのか自信が持てない。
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 動き出した電車の中で、さっきの瑞龍寺を思い出していた。
 古いものは、いい。
 年輪は、きもちを落ち着かせてくれる。
 でもその一方で、新しいものにも心惹かれる。
 新しくなにかを創り出すエネルギーに感服する。
 ぼんやりと、その間でわたしはなにをするのかなと考えてみたりする。


 氷見駅に着いてから、電車の中で見ていた地図を頭に描き、とりあえず海の方へ歩いた。
 思ったより遠く、何度も大丈夫かと思ったけれど、初めに線を書いた道筋で間違いはなかった。
 夕方近い港は人も車もまばらで、朝が早いせいでお店はほとんどが終い支度をしていた。
 期待していたおいしい魚も口に入れることができず、でもどこか氷見行きの電車を選んだことで少し満足するきもちもあり、人気のない港を歩いたことをよしとして高岡へ戻ろうかと思っていたときに1通メールが届いた。
 期待と失望が半々の、マーブル模様がわからなくなってしまったような複雑なきもちにさせるメールだった。
 氷見周辺の地図を示した大きな看板を日よけに、しばらくそこで立ちすくんだ。
 誕生日なんだけどな、と胸の中でも小さな声で、自分に聞こえないように呟いた。

 氷見駅へと戻る道すがら、失望が器から飛び出てしまわないように静かに、でも必要以上に気落ちしてしまわないように、慎重な足どりで歩いた。
 ニュートラル。フラット。
 そんな言葉を、頭の中に思い浮かべていた。
 駅までもう少しのところでバス停を見つけると、後ろからタイミングよく高岡行きのバスがやって来たので、せっかくだから違う経路で帰ろうとそのバスに飛び乗った。
 バスには人はまばらだった。


「わたしは絶対に後悔しない。」
 と、中学生のときに言ったそうだ。
 自分は覚えていないけれど、友が覚えてくれていた。

 胸の中で渦巻く思いについて、バスの中でうーむと考えた。
 結果はどうなるにしても、やっぱり決着のつけ方にこだわりたいと思った。
 失望したけれど、期待もしたのだ。

 後悔しても、しないように。
 結局は、そこで放り投げるよりも、また失望する可能性が高くてもそれが最終地点だと確かめるまでは終われない。
 そこまで考えて、決めて、ひとりにやりと笑った。
 今考えると、笑えるようなものでもなかったのだけれど。 


 高岡でバスから電車に乗り換え、富山駅を目指した。
 窓の外を眺めながら、複雑にこんがらがったきもちの整理をするためにいろんなシュミレーションをしていた。
 笑う、泣く、強がる、薦める。
 きっと、どんよりした顔をしていたことだろう。
 眠気もあり、思考回路の回りは遅く、鈍さも出てきていたのかもしれない。
 それが、ひとつの光景を目にして、一瞬で目が覚めたようにパッとなにかが飛び散った。

 線路沿いの細い道に、小さな女の子とお母さんが寝転んでいた。
 ふたりは空を見上げ、なにか話していたのだろう。電車には目もくれなかった。
 脇には女の子の小さなピンクの自転車があった。
 わたしもあんなふうな、日常のささやかより少し大きめの幸せがほしいなとねだってみたくなった。


 その夜は、ホテルの窓から暮れて落ちてゆく陽を見ていた。

 日没は少しずつ進んでいる。
 でもまだ、空は紺色よりも水色が強かった。
 そのまま空が濃紺になって暗闇になるまで、じっと辛抱して灯りを点けなかった。
 暗闇が目の錯覚で、騙されたりしないようにと妙にこだわりながら。

 車と電車が走る音が、ずっと聞こえていた。
 久しぶりに夜になる様子を見た。ほんとうに、久しぶりに見た。
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by fastfoward.koga | 2008-09-12 21:15 | 旅行けば | Comments(0)