言霊の幸わう国

カテゴリ:四〇〇字・課題( 17 )

なびく洗濯物の影に

 洗濯機はとにかく小まめに回す。洗濯機は止まったらたら中身はすぐに取り出し、カゴに移す。絡まった洗濯物は干す前に解いて広げる。生地をピンと張り、皺を伸ばす。そしていったん畳んで叩き、さらに皺をとる。
 干し始めはタオルから。ベランダ右手の外側に、間をつめて幅の広い洗濯ばさみひとつで二枚のタオルを一度に止める。そのあとは靴下、次に下着の順で干していく。
 シャツなどハンガーに掛けるものは生地が厚いものから順に、ベランダの右側に奥から手前に並べてゆく。ベランダが南を向いているので午後から夕方にかけての陽射しが当たりやすく、そうするとよく乾く。左側にはパジャマのズボンやバスタオルを干す。物干し竿に引っ掛けるときには手前側から洗濯物を掛け、向こう側に引っ掛ける生地の量を多くして洗濯ばさみで止める。これもできるだけ陽射しを浴びる部分を増やすためだ。
 テキパキと要領よくすべてを終えようとするのだけれど、カゴの中の洗濯物の質と量をはかり損ねて、物干し竿に掛けたあとに洗濯物をスライドさせたり外したり、もたもたしてしまう。二〇分ほどかけ干し終えたあとは、窓の桟の上に立ちベランダをざっと眺める。どの洗濯物にも陽射しがうまく当たるか、バランスよく干せているかの最終チェックだ。
 毎回そこで思う。干し方が母そっくり。

 課題 「私の出会った人物」というテーマで六〇〇字の作品を作ってみよう。
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by fastfoward.koga | 2009-06-08 22:20 | 四〇〇字・課題

隠れ家

 ときどき、無性にホテルに泊まりたくなる。豪華なホテルでなく、ただのビジネスホテル。スムーズにギアチェンジできなくなると、大げさに日常から離れたくなるのだ。本の世界にのめりこむのも、旅に出るのも、そういうきもちからきているのだろう。
 今日も会社のそばにあるビジネスホテルの前を通ったとき、並んでいる窓の一室を想像した。
 こじんまりした清潔で素っ気ない部屋。ぐるっと見回してみると、気分の高揚はせずとも荒熱がスーッととれていく。白っぽさを強調した部屋では、余計なものなど削ぎ落とさなくては、という気になる。
 そばには誰もいない、世界からほんの少し切り離された空間。シンとしてスカスカした感じのするあの場所に紛れ込みたい。
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by fastfoward.koga | 2009-05-13 23:34 | 四〇〇字・課題

吠えずに拗ねる

 会社帰りの道すがら、いくつも灯りが目についた。公園の街灯、飲み屋の看板、信号機の赤。遠くに高層マンションの灯り、そのもっと向こうに昨日より太った三日月。
 電車を降りてから暗い道を歩いていると、後ろで大きな音がした。振り返ると高架を電車が通り過ぎていった。ガラガラ、ガラガラ。横断歩道を渡ったあと、自分の中に居座った寂しさを形容しようと頭の中で言葉を回転させた。さっきの電車のように音も見た目も空っぽなのか、首筋を駆け抜ける風のようなスースーする感覚なのか。そこまで考えて、形容などする必要もないと考え直した。今感じているのは寂しさそのもの。大きさはソフトボールぐらいだろうか。
 期待していたことが叶わなかった。会えると思っていたのに、会えなかった。どうして今日の月は黄色すぎるのか。もっと白くて夜空に溶けるくらいでいいのにと月に拗ねる。
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by fastfoward.koga | 2009-04-30 22:19 | 四〇〇字・課題

満腹飽和

 昨日の夕方から、胃が痛い。心当たりとしては、仕事3割、勉強3割、ひと口ふた口ほどの食べ過ぎ3割、残り1割は寂しいからかだなんて分析した。それは冗談として、普段は飲んでいたらキリがないから飲まないようにしている胃薬を、昨日今日は続けて服用した。ゴミ箱に放り込んだ水色の薬の袋を見ていたら、今日の自分の行動は珍しいと別の場所から見ている自分に気づいた。薬を飲んですごく楽になるという感覚はない。ただ痛みは治まる。そこを求めていた。
 夕飯は少し残し、部屋に戻ってから退屈しのぎに図書館で借りているお菓子の料理本を眺めた。作る気はないから写真のページばかりを探してページを捲った。いつも読むのは文字ばかり書かれている本だから、こうやってパラパラ眺めることはめったにしないが楽しい。テキストの知識を詰め込みすぎて、頭もお腹も満腹になっていたのかもしれない。
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by fastfoward.koga | 2009-04-29 23:10 | 四〇〇字・課題

我が道は

 書くことを勉強しようとすれば、いつかきっと書くことに迷いが生じることはわかっていた。書く気にならないとか書こうとしても書けないとか、そういうことも想定の範囲内だ。
 強迫観念で次々テキストを読む。中毒。掻き立てるものが正負どちらの感情なのかわからないから、途切れると正直怖い。
 数冊のテキストから学んだのは、とにかく書くこと。迷うきもちもメモする。イメージを言葉にして捉える。真似でも書く。書こうとする姿勢を保ち、書こうとする努力と時間を惜しまない。
 千里の道も一歩から。ローマは一日にして成らず。目の前に広がる道のりはガッタガッタだけれど、ゴールは20000字超。さあペンを片手に、行ってみよう。
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by fastfoward.koga | 2009-04-23 23:24 | 四〇〇字・課題

初幽体離脱

 吐いたことに気づいたハハが、その瞬間小さく叫んだ気がする。外に出たあとは、慌てるハハの傍らにぼうっと立っていた。
 車に酔って吐いたのだから汚れた洋服への不快感や嫌悪感を抱いてもよさそうなものなのに、そういう感じは一切なかった。吐いてしまったという事実と真正面から対峙していた。けれど我慢しなくてよくなったことへの開放感と罪悪感の入りまじる思いをこどもがうまく処理することができるはずもなく、まだ小さな足で呆然と立っていることしかできなかった。
 すうっと、体から意識を持つ自分が抜けてしまっていた。でもその自分がそのあとどこへ行ったかはわからない。でも今こんなことを書いているのだから、ちゃんと体に戻ってきたのだろう。

 課題 「最初の記憶(私の一番古い記憶)」

 みなさんの最初の記憶、1番古い記憶はなんでしょう?
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by fastfoward.koga | 2009-04-21 21:35 | 四〇〇字・課題

かわいい人

 笑った顔がかわいかった。三十過ぎた男の人に失礼かもしれないけれど、背中に向かってもう1度かわいい! と大声で心の中で叫んだ。
 それは同じフロアにいる男の子。普段は笑っていないと仏頂面に見えるけれど、ちょっとしたところに垣間見られる礼儀正しさが密かに気に入っていた。
 1回目はわたしが入口のセキュリティを解除したところに彼がやって来て、扉を開けて待っていた。2回目は彼が先で、扉を支えて待ってくれていた。実は炊事場で後ろを通り過ぎたのが彼だとわかったのでタイミングを外そうかと躊躇したのだけれど、いやいやそれはかえってわざとらしいと追いかけていったのだ。
 恐らくわたしの慌てぶりと、さっきとは逆のシチュエーションだと思ったことからきた笑顔なのだろう。理由はなんでもいい。笑ってくれると、わたしの顔も自然とほころぶ。


※ しばらく、課題のために400字でブログを書くことにします。
  気が向いたら、やめると思いますが(笑)。
 
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by fastfoward.koga | 2009-04-20 22:30 | 四〇〇字・課題