言霊の幸わう国

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そこに扉がある限り

 今日は健康診断で、採血をした。

 いつものことなのだけれど、わたしは注射針から目をそらすことができない。
 針が腕に刺さり、抜かれるまでをじっと首を捻って見ている。
 自分の見ていないところで、どんなことが起こっているのかを見逃したくないのだ。

 どんなことをするとどんな痛みを感じるのか。
 心のそれも体のそれも、ちゃんと知っておかなければと、思う。

 そのせいで、もしかしたらいらぬ痛みを感じたり、いらぬ傷を作ってきたのかもしれない。
 癒えてさえいれば、今さらどうこう言うことではないのだけれど。
 ふと、考えたりするのだ。
 痛みを感じている最中は、このやり方がほんとうにいいのだろうかと。

 目の前にある扉が開いているとわかったら、ドアノブに手をかけずにはいられない。
 入ってすぐが崖っぷちだったとしても、行ったことのないところなら行ってしまえとギリギリのところで自分を前に押し出してしまう。
 生傷が絶えないとまでは言わないが、もうちょっとどうにかできんのかと思う日もある。

 でもやっぱり、開けられる扉はどーんと開けて、足を前に進めてしまうんだろうな。
 そして片足突っ込んでから、やってもたー、と思うのだ。

 いつかの逡巡が一向にプラスに作用しないのなら、せめて痛みや傷に怖気づかない自分でありたい。
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by fastfoward.koga | 2007-11-30 19:54 | 一日一言

彩られる絶望

 今、わたしの携帯の待ち受け画面は、岡本太郎の言葉。
 先日、トーキョーにある岡本太郎記念館で撮った写メだ。

「私は絶望を、新しい色で塗り、きりひらいて行く。
絶望を彩る事、それが芸術だ。」


 赤い部屋でこの言葉を見て、じーっと立ち尽くした。
 圧倒されて、目に溜まった涙が落ちそうで、ごまかしながら目の前にあるイスに腰かけた。
 同じくらいに中に入った女の人が部屋を出るのを待ち、もう少しもう少し、とその場所で過ごした。

 何度もくり返し、読んだ。
 小さな声を出しても読んだ。

 日常目にしない「絶望」という言葉を前に、そうかわたしは絶望しているのだと思った。
 でも、その絶望を新しい色で塗り替える、と岡本太郎は言うのだ。
 赤い部屋では、どんな色にも塗り替えられるような気がした。
 そして、きりひらいていけるのだと、心の中にぽっと火が灯るように力強い思いが生まれた。

 わたしが彩ったものが芸術になるとは思えないけれど、自分の奥底から出たものはやっぱり重い。
 重いだけあって、そう簡単に消えてなくならない。
 そういうものが積み重なって、初めて手にできる思いがあるのかなと思う。

 携帯を開くたびにまぶしいほどの赤が目に飛び込んで、自分が彩るものはこんなふうに生き生きとした色であればいいのに、と。
 今はまだ願うばかり。
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by fastfoward.koga | 2007-11-29 21:43 | 一日一言

砂時計

 記憶が間違っていないかを確かめるために、昨日の夜アルバムを開いた。
 いろんな場所に出かけて撮った家族写真を、久しぶりに何度も何度も見た。
 
 確かめたかったのは、小学校五年生のときの家族旅行の写真だ。
 行き先は天橋立で、祖父母といとことわたしの家族で出かけた夏休みの旅行だった。
 わたしはその旅の、断片だけれど時折思い出す、ずっと忘れずにいる記憶を持ち続けている。

 それは、こんな場面の記憶だ。
 天橋立の周辺にある神社の境内に、お守りが並んでいた。
 いくつもの願いを叶えるためにあるお守りの中に、縁結びと書かれたものをわたしは見つけた。
 きっとそれまでにも、縁結びのお守りなんて見たことがあるはずだった。
 でもなぜかそのとき、わたしはこのお守りがどういう意味のもので、どんな願いを叶えるためにあるものなのかを正確に理解した。
 そして、そのころすきだった子のことを思い出していた。
 そのことがあったからだろうか、そのあと笠松公園で天橋立の松並木を眺めながらこんなことを思った。
 次にわたしがここに来るときには、きっと他の誰かのことがすきなんだろうな、と。

 マーイッチョマエニ! と、自分でも恥ずかしくなる。
 でも、よくよく考えるとその思いは、大人になった今のわたしが旅をしたときに思うこととそうたいして差はないことだったりする。

 小さいころ両親が連れて行ってくれた場所に大人になってから訪れるようになって、そうだ間違いない、この場所だ、と確信を持ってその場所に立ったとき、いつも自分に問うてきた。
 果たして、あのころからわたしは変わったのか?
 その問いに変わったと言いたくて、言えるだけのふさわしい答えを探そうと、今と前の自分の違いを探した。

 背が高くなった。
 学校を卒業して仕事をしている。
 本をたくさん読んだ。
 恋もたくさんした。

 そういうささいなことをいくつも挙げて、ほら大人になったでしょう、変わったでしょう、と誰に言うでもないのに胸の中でムキになって主張した。
 いくら比較対象が小学生の自分であったとしても、わたしは負けたくなかった。
 変われないことを、ほんとうに、心の底から怖いと思っているからだ。

 でも実のところ、わたしが望む劇的な変化などそうありはしない。
 相変わらずこどものころから同じことを考えているし、人生につまずいたり挫けたりするのもほぼ同じところ。
 だいたい変化なんて、自分自身で振り返ってひしひしと感じられるものではないのだ。
 
 変化を求めて、変化した自分を求めて、旅に出る。
 それはそれでいい。
 でもその一方で、変わっていない自分を探して旅をしていることもある。
 大丈夫、このままでいいと、後押ししてくれるものを旅に求めていたりもするのだから。

 振り返って、間違いなく変化していたのは時間だけだ。
 時間は、意図的に変化しようとせず、砂のようにさらさらと流れてゆく。
 それが結果として変化になるのだけれど、その気ままさに倣って、次の旅はわたしもそんなふうにただ流れてみたい。



 ◆お題     「時間」 「変化」 「旅」
 ◆出題者   「ゆっくりFrogライフ 街や店を観察して部屋に帰るインドアな日常」
                              korotyan27 サマ
 ◆korotyan27サマへ
  書いていたら、考えていたのと違うところへ着地してしまいました(笑)。
  korotyan27さんからいただいた「さんご」は、わたしがよく使う言葉であったり、
 よく使うテーマでしたので逆にいつもと違う切り口はないものかと思案いたしました。
  が、やっぱりいつもと同じことを書いてしまったかも・・・。

  でもいつもと角度を変えて見てみるというのは、おもしろいですね。
  ご参加、ありがとうございました!
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by fastfoward.koga | 2007-11-28 00:28 | さんご

100冊越え

 今年も、昨年に遅れることなく100冊を読み終えた。
 読んだなぁという達成感というものはまったくなく、目標は単なる通過点になった(ちなみに今年の100冊目は、絲山秋子の「袋小路の男」だった)。
 今年はペース配分もよく、ほんとうに毎日の中に読書が当たり前にある生活が送れるようになったのだなと思う。

 拙いながらも自分で言葉を綴り、自分の思いを100%表現しきれないときには今まで読んだいろんな作家の文章が頭を巡る。
 言い回しをまねしたりするような直接的な影響はないとは思うけれど、リズムやテンポは読むことで培ったような気がしている。

 書くために読む。
 ただ楽しんで読む。

 どちらもそのままで、まだ見ぬ宝箱のような本に出会えることを期待して。
 貪欲に読み続けてまいりましょう。
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by fastfoward.koga | 2007-11-26 22:40 | 本の虫

感謝御礼申し上げます

 このたびは、「さんご」にご参加いただきましたみなさま、誠にありがとうございます。
 そしてわたしが書き記した「さんご」を最後まで読んでいただいたみなさま、コメントをいただきましたみなさまにもお礼申し上げます。

 どんなもんかい、と始めたものでしたが、なんとか引っかかりを感じつつも70%くらいの出来で滑り出したのではないかと思っています。
 無理をしないで書けるペースを見つつ、できるだけ長く続けることがわたしの希望です。
 飽きっぽいのがわたしの悪い癖ですが、そこはみなさまから新鮮な「さんご」をいただいてがんばってまいります。

 どんなこと書くんやろ、こいつ、と思いながら見守っていただければ幸いです。
 今後もご贔屓に。
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by fastfoward.koga | 2007-11-25 23:03 | さんご

未来日記

 なぜか冬になると睡眠時間が長くなる。眠っても眠っても目が開けられず、睡魔に引っ張られるようにしてまた眠ってしまう。果たして、今はもう冬なのだろうか。そんな疑問が頭に浮かんで、少し考えてから睡眠時間が長くなっているのでそうなのだろうと自分なりの答えを出した。
 そうするといてもたってもいられなくなって、用意周到に進めていた冬旅支度の最後の仕上げをして、飛行機に飛び乗った。

 上空からの景色は、もっと北へもっと北へと思いを強くさせる。飛行機が着陸する前にきもちがパンクしないようにと、シートに体を戻してガイドブックではなく文庫本を開いた。
 そうやって、自分の現在位置を忘れて冷静になったフリをしてみた。

 飛行機は、時刻どおりに到着した。
 冷えて枯れた景色が、ロビーの大きなガラス越しに見える。歩を進める足よりも、思いが前にいる。そんな逸るきもちを宥め賺しながら、やっと辿り着いたぞと自動ドアを開けた。

 今年買ったばかりの長靴ブーツで、真新しい雪を踏みしめた。ゴムと雪が触れ合って、ぎゅっぎゅっと鳴いている。これがしたかったのだ、とうれしさが体中を駆け巡った。
 あぁ駆け出したい、と思う。でも、背中の荷物が重すぎる。
 そんな掛け合いのひとつひとつを疎かにせず胸のうちでくり返していると、興奮しすぎて呼吸が浅くなっていた。少し顎を上げて口を開けると、吸い込んでもいないうちからひんやりとした空気が喉まで流れ込む。その空気を、逆らうことなく、ごくんと飲み込むように体の奥へ落とし込んだ。
 鼻の中に広がる、無味無臭の冬の匂い。もう1度味わうかのように、深呼吸をした。
 冷たい空気と引き替えに、生暖かい息が外へ吐き出されるたびに体は冷えた。気温と体温がなじんで、やっとその地へ来たことを許された気になる。これで、安心して次の一歩を踏み出せる。

 空港からバスに乗り、街へ向かった。車中で街へ着いたあとの予定を復習し、時刻表をめくったり地図を確認しているうちに、また先へ先へときもちが急ぎ始めた。
 そんなふうに、体の中ではどこかへ辿り着こうとする思いがますます回転を速くしている。なのにそれとは裏腹に、表情からは色を消していることを我ながら不思議に思った。ときどき乗り物の窓に映る自分はぼんやりした顔をしていて、退屈そうにも見えた。
 静かにまた胸の中で掛け合いを始め、なんだろうなんだろうと考えるスイッチをオンにした。流れる景色は白一色。そのうち、あと少しで街に着くのがわかっていながら、雪に反射する光のまぶしさに耐えられず誘われるように目を閉じてしまった。

 ほんの少しうとうとしたと思ったら、バスは停留場に到着した。わたしは大きなリュックを背負って、バスを降りた。
 もう一度地図で現在位置を確認し、点在する行きたい場所を効率よく線で結んでイメージ化した。そして興奮がそれを消してしまわないように、そっと歩き出した。

 背負い始めは息も詰まるほどの重い荷物も、歩けば歩くほど体と一体化した。南九州を旅したときもそうだったけれど、気づくともともと体の一部だったかのように感じる。この調子よさは一体なんなんだ、と今回もまた自分に突っ込んだ。

 2時間ほど歩き回り、足先の冷えもそろそろピークだなと思ったところで、歩き疲れを急に実感した。少し休もうと決め、しばらく歩いてこじんまりしたカフェを見つけた。ここなら落ち着けそうだともうひとりの自分が賛同したので、すたすたとお店に入っていった。
 店内はほどよい暖かさだった。でも外との温度差に、頬のあたりがぴりっとするのを感じた。
 席に案内され、反対側のイスに大きなリュックをよいしょと下ろした。とたんに着ていたダウンもまどろっこしくなり、急いで脱いでイスに腰かけた。
 いきなりやって来る、地球の重力を実感する瞬間だ。

 ふと隣の空いているテーブルで目が止まった。そこには、ふたつのスープカップが置かれたままになっていた。
 白くてころんとしたスープカップには、赤いシミが残っていた。きっとミネストローネの飲み跡だろう。白と赤のコントラストが、妙に息苦しい。そう感じて、わたしはこの地に着いて、初めて色を認識した気がした。
 メニューを広げ、スープの欄からクラムチャウダーを注文した。間もなく運ばれた白いスープの色を確認し、安心する自分がいた。
 湯気を吹くふりをして、ふーっと深く長い息を吐いた。

 スープを飲み終え、あちこちで感じている疲労の確認作業をする。首を回して、肩を上げ下げし、ふくらはぎを片手で揉み解し、最後に長靴ブーツの中のそのまた中に履いている分厚い靴下の中で、足の指を泳した。
 ほんのわずかに体がほぐれたと自分を騙し、ダウンを着込み、リュックを背負った。
 次の目的地は、ここから歩いて五分ほどのところにある旧の市立図書館。でも店を出ると陽は少し傾き始めていて、一瞬迷ったけれど目的地を変更した。この街で、夕暮れを過ごしてみたくなったのだ。
 そうして、わたしは旧市立図書館を通り過ぎ、お城のある公園に向かった。 

 公園内には、いくつもの足跡が石畳に残されていた。どんな人が歩いて行ったのかと想像しながら、それを道標にして歩いた。
 夕暮れまでには、まだ時間がある。落ち着く場所はゆっくり探せばいいと、ざらざらした石畳をそれて道の脇のほうの雪を踏みしめたり、こどもみたいにあちらこちらへふらふら足跡をつけた。

 公園をほぼ半周したくらいで気力負けし、空が広く見える場所に腰を落ち着けることにした。ベンチには、もちろん数センチの雪が積もっている。その雪を手袋をはめた手と腕で、ごそっと地面へ落とし、公園に入る前に寄ったコンビニの袋を広げて腰を下ろした。
 ほーっと息をついて空を見上げると、さっきよりもずいぶん空に紺色が混じっていた。足元へ視線を落とすと、雪まみれになった長靴ブーツがある。爪先からその先を辿ってゆくと、石畳から脱線して歩いてきた自分の足跡が続いていた。

 じっとベンチに座っていると、足元やお尻からしんしんと体が冷えてくるのを感じた。でももう少しこうして空の色が変わるのを見ていようと、半ば意地になりながらそのままぽつんとしていた。
 公園は静かで、人っ子ひとり通らなかった。このままひとり、空が濃紺に変わるまでいられたらいいのに、と思った。でもほんとうのところ、あと十分が限界だと本音を洩らして、時計を見てきっかり十分たったところでベンチを離れた。

 帰りは、行きにつけた足跡の横を歩いた。ベンチまでの間にきれいに並べた往復する足跡を振り返り、なぜだか今自分は寂しくないと感じた。出発前、ほんとうはすごく寂しくなるような気がしていた。誰の影も誰の記憶も誰の思いもちらつかない、この旅。
 そういう意味では初めてのひとり旅になるのか? と、自問自答というよりは軽くひとりごちてみた。
 久しぶりに発した自分のその声に、ほんの少し目頭が熱くなった。なったけれど、涙は寒さですぐに引っ込んでしまった。わたしはなにもなかったように来た道を戻り、ホテルへと向かった。大人になると、こんなことはささいなことだとなかったことになるんだよなーと、そのことは寂しいと思った。



 ◆お題     「夕暮れ」 「冬の匂い」 「スープカップ」
 ◆出題者   ふじこ(笑)サマ
 ◆ふじこサマへ
  いただいた「さんご」から、おそらく共通であろう思い出を頭に思い浮かべました。
  が、それをそのまま書いたら単なる思い出話になるなと・・・。
  わたしにとってはこの「さんご」は同じカテゴリに分類されるものだったので、逆に
 分解するのが難しかったです。
  きっとふじこさんの想像とは違うものが出てきたのではないでしょうか。
  なにはともあれ、ご参加ありがとうございました。
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by fastfoward.koga | 2007-11-25 22:50 | さんご

なんだろうくん

 隣の事業部で働くモモちゃん。
 誕生日なんて知らないけれどモモちゃんは絶対にわたしより年下で、その立ち姿には青臭くどこかほろ苦さを感じるものがある。一方、向こうは向こうでわたしを同世代だと思っているらしく、モモちゃんには苗字を文字って「ホーリー」と呼ばれている。
 同じ会社と言っても各事業部は横の繋がりがあるわけでもなく、モモちゃんとは顔を見れば挨拶をする程度で、会話らしい会話などしたことはなかった。
 それがひょんなことがきっかけで、話をするようになった。

 その日、わたしは電話応対に追われ、ひとりいつもより遅い昼休みをとっていた。デスクにいると仕事を頼まれてしまうからと、食事のあとはエレベーターホールの片隅に置かれた小さなコーナー机でホットペッパーを広げていた。
 左ひじをついてピアスをいじり、マッサージのお店の欄見ていると、モモちゃんが口をパクパクさせて飛び込んで来た。どうせ誰もいないと思って驚いたのだろうと、会釈することもなく視線を台湾式マッサージのお店に戻すわたしに、モモちゃんは問うた。
「チョコレート中毒ってなに?」
「・・・犬とか猫が、チョコレートを食べて酔っ払いみたいになったり、吐いたりすることやろ。」
 その答えに合点がいったとばかりに、モモちゃんは指でOKマークを作って走り去った。パーテーションの向こうで閉じるドアの音を聞きながら、わたしは思わずなんじゃあれ、と小さいながらもお腹の底から出した声で呟いた。

 それからというものの、モモちゃんはなにかわからないことがあると事業部の見えない壁を越え、わたしに話しかけてきた。
 会話の初めは、もっぱらこうだった。
「なぁなぁ、ホーリー知ってる?」

 今までモモちゃんがした質問は、電車のダイヤを下げるってどういう意味? とか、このへんで一番安いチケットショップはどこ? とか、ロジックツリーってどんなんやったっけ? とか、別にわたしにしなくてもいいものばかり。
 今日もわたしがコピーをするために席を立つと、自分の上司にチラッと視線を走らせやって来たモモちゃんはこう言った。
「なぁなぁ、ホーリー、マーティン・ルーサー・キングって『グリーン・マイル』書いた人やったっけ?」
「それはスティーブン・キング。マーティン・ルーサー・キングは『アイ・ハブ・ア・ドリーム』の人。」
 モモちゃんは、あっそうか、ふーんと、答えはどうでもいいかのように呟いた。相変わらず意味不明だと思っていると、モモちゃんはわたしの顔を覗き込むようにして言った。
「来週休みとってフランス行くねんけど、なんかおみやげほしいもんない?」
 えー、いいよー、と左耳の真珠のピアスをくるくる回しながらわたしが言うと、モモちゃんは遠慮せんでんもと、しつこくくり返し引き下がらない。
「じゃあ、絵ハガキ送って。」
「そんなんでいいのん? わかったー。」
 モモちゃんはくるりと背を向け、小さな風を起こして席へと戻って行った。

 数日後、約束どおりフランスから絵ハガキが届いた。表には、夜のエッフェル塔が映っていて、あまりのベタさに心の中で突っ込んだ。
 ハガキをひっくり返すと、そこには初めて見るモモちゃんの文字。右肩上がりで尖っていて、男の子らしい感じがした。その文字で、今日はセーヌ川近くのなんとかという美術館というところに行った。有名な人が設計したらしい。ホーリーそれって知ってる? と書かれており、わたしは思わず吹き出した。
 ハイハイ、それはヌーベルが設計したケ・ブランリー美術館ですよーとハガキに返事をして先を読み進めると、最後に追伸が書かれていた。

「ホーリー、ピアスをくるくる回す癖は退屈そうに見えるからやめたほうがいいと思います。だからついつい話しかけてしまうのですが。桃井健次郎より」

 面と向かって言えよーとまた突っ込んでハガキを置くと、ちょうど指が触れていたところに茶色いシミが付いているのに気がついた。
 自分の指を見たけれど、汚れてはいない。ということはモモちゃんが付けたシミかと思って近づけてよく見ると、かすかに甘い香りがした。
 チョコレートだろうかと、わたしは絵ハガキを書いているモモちゃんを思った。シミに鼻をくっつけてくんくん匂いを嗅いでみたけれど、ザラッとした感触が鼻先に当たるだけで匂いはもうしなかった。
 一瞬感じた甘さは、錯覚か。



 ◆お題     「真珠」 「チョコレート中毒」 「フランスからの絵葉書」
 ◆出題者   「城下町の町屋暮らし」 市丸サマ
 ◆市丸サマへ
  フランスなんて行ったことないしーとなかなか書き出せず(笑)。
  書き出してから何度も修正し、結局初めとは全然違うものになりました。
  でも楽しかったです。自分が普段使わない言葉は、新鮮でした!
  ありがとうございました。
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by fastfoward.koga | 2007-11-22 23:10 | さんご

木枯らしの日に気づく

 今日、車を運転しながらふと気づいた。
 誰かを幸せにできることは、自分を幸せにするのだなと。

 信号待ちの交差点で、外は木枯らしがびゅんびゅん吹いていた。
 ちょっと涙が滲んだ。
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by fastfoward.koga | 2007-11-22 22:17 | 一日一言

青い地球

 地球儀がほしいなと思っていた時期があった。
 なんのために、という明確な目的があったわけではない。
 ただ、くるくると回して想像を大きくすることのできるおもちゃがほしかった。

 と安易に欲しがるものの、その欲求を満足させることのできる大きさはかなりのもので、実際にあるのかどうかわからないけれど、わたしが欲しいと思っていたのは直径60センチくらいの大きさのものだった。
 そして、もうひとつこだわっていたのは、海を表わす青。
 よくある薄い色ではなく、どちらかというと紺に近い濃いブルー。
 そんな地球儀があったらなと、ただ漠然と欲していた。

 地球を飛び出した宇宙飛行士たちが、口を揃えて言うセリフ。
「やっぱり地球は青かった」。
 薄い水色の地球儀を頭に描いて、わたしは知っているような口ぶりでそうやんね、と心の中で頷いてみる。
 でもそこで、欲しかった地球儀のような濃いブルーで彩られた生々しい地球の映像を見て、はたと我に返る。
 地球は、水の惑星なのだと。

 どこまでも丸い球体は、見れば見るほど水を湛えているのがよくわかる。
 今にも水が滴り落ちそうだ、と何度も思って、そうそうでも地球には引力があるのだ、と何度も思い直す。
 その姿には、地球そのものが命なのだと語りかけてくる力強さがある。

 そんなことを今ここで書き記しているわたしの中の宇宙にも、同じような青々とした地球がぽっかりと浮かんでいる。
 この手で包み込めそうなくらい、確かにそこにある。
 わたしはそれがわかる。

 その存在をある人は絵にし、ある人は造形物として表現し、ある人は空間として見せる。
 わたしはいつまでたっても隣の芝が青く見えて、そんな表現ができる人を羨ましく思う。
 自分にだけ見えているものを、伝えたい誰かにも見せられる。
 それってやっぱりすごいことなのだ。

 今から変身してなれるものなら、なりたい。
 でも、できない。
 でもでも、できないからと諦めることもできない。
 だからわたしは、書く。

 言葉で、どんなにわたしの地球が青いのか、その青さはどんな濃さで透明度で、どんなふうに回っているのかを、伝える努力をする。
 人には、正しく伝わらないかもしれない。
 伝わったと思っても、実は伝え切れていないこともあるかもしれない。
 けれどわたしは、わたしが伝えることでその人の中にも青い地球が毎日回っていることに気づいてくれればいいかとも思う。

 自分の中の青い地球がくるくると回る限り、いくらでも言葉を繋いでゆく。
 その覚悟が、この「さんご」。



 ◆お題     「言葉」 「命」 「地球」
 ◆出題者   「太美吉の楽書」 太美吉サマ
 ◆太美吉サマへ
  1番乗り、厚く御礼申し上げます。参加してもらえて、ほんまうれしかったです。
  内心、誰もリクエストくれへんかったらどうしようと思ってたんですー(笑)。
  初めにふさわしく言葉を繋げたと思うんですけど、どーでしょう。
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by fastfoward.koga | 2007-11-20 23:47 | さんご

さんごとは?

 さんごとは、みなさんからいただいたみっつの言葉を使いわたしが文章を書く、所謂コラボです。
 書くのは散文かもしれないし、小説かもしれないし、随想かもしれない。
 書いてみないと自分でもわかりませんが、とにかくみなさんからいただいた言葉みっつを膨らませて、言葉を紡いでみます。

 選んでいただくみっつの言葉は、個人を特定するものや、誹謗中傷、猥褻な言葉など、わたしが個人的にふさわしくないと思った「さんご」はお断りさせていただきます。
 また専門用語など、一般的に知られていない言葉もご遠慮させていただきます。
 ただし、解説をいただいてわたしが理解できるものならかまいません。
 固有名詞については、現存しないものとして扱う可能性がありますのでご注意ください。
  
「さんご」は名詞、動詞、形容詞など、なんでもかまいません。
 簡単なものなら形容詞+名詞など組み合わせてもらって結構です。

 例えば・・・。
「寝起き・化粧の濃い女・置き傘」
「ふわふわと空を飛ぶ・図書館・函館」
「写真集・歯のないおじさん・太陽の塔」
 などなど。

 みなさんからの「さんご」は、募集時期を記入しているコメント欄で受け付けます。
 ご参加いただいたみなさん以外の人にも楽しんでいただけるよう、必ず鍵コメでお願いいたします。
 その際に、「さんご」を公表するときにお名前とブログをされているかたはリンクをはってもいいかについても書いていただけると、うれしいです。

「さんご」は、みなさんとわたしが言葉と想像力の可能性を広げる遊びです。
 ぜひ、思いついた「さんご」で気軽にご参加ください。
 ご応募、お待ちしています。
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by fastfoward.koga | 2007-11-19 23:59 | さんご