言霊の幸わう国

<   2007年 12月 ( 22 )   > この月の画像一覧

ギブ ミー!

 クリスマスの朝、5時過ぎに起床。
 目覚ましを止め、どうして休みなのに仕事に行かなくてはいけないのかという思いを押さえつけ、ベッドを抜け出した。
 部屋を出るとき、無意識に振り返りベッドを見た。
 枕元にはいつものぬいぐるみと、読みかけの本。
 それだけ。

 支度を終え、うちを出る。
 ガレージからベスパを出しながら、その暗さにまるで夜だと思った。
 エンジンをかけると、ライトがアスファルトをまっすぐ一筋の光で照らした。

 走り出すとすぐにベスパは東を正面に見る。
 ずーっと向こうの空に、太陽の光をかすかにも見ることはできなかった。

 16時過ぎごろだろうか、もうこんな時間だとつぶやいたひとりごとが同僚の耳に届いた。
 ほんとにねー、という返答に、どうして5時過ぎに起きたというのに1日はこんなに早いのかという言葉がつい口を出てしまった。
 そう自分で言ったそのあとに、そうか暗い間にうちを出てしまったから今日は枕元にまだプレゼントが届いていなかったのだ、とそんなふざけた言葉がまた口をついて出た。

 帰宅した部屋には、まだプレゼントはなく。
 そうか、窓の鍵を閉めたままだったからだ。

 なんてことはもう思わない。
 大人だもの。

 でも・・・。
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-31 23:59 | さんご | Comments(18)

バーを跨ぐ

 今年の年末は、念入りに大そうじをした。
 ここ数年はちょっと手を抜くことが多く、網戸や窓を磨かなかったり、床のワックスがけを省いたりしていた。
 でも今年はそういう手抜きがどうしても自分で許せず、根を上げないように日を分けておこなった。

 ただ黙々と手を動かした。
 考えごとをしているような、していないような。
 目の前の汚れが落とすことに意識が集中していた。

 一昨日、近所の新築の家が並んで建っているところを歩いた。
 どの家も新年を迎えるために大急ぎで引越しした様子が見てすぐにわかるくらい、玄関先にもベランダにもまだ生活観がなかった。
 ほの明るい外観を見ながら、ふと自分が同じ体験をしたときのことを思い出した。

 手で運べるものを、少しずつ休日や夜に両親と兄とで運んでいったがらんとした部屋。
 隅のほうに見慣れた荷物を並べ、見慣れぬ部屋と一体化した目の前の映像にむずむずした。
 そういうきもちが一気に蘇り、年が新しくなるということはそれに似ているのだと思った。

 新年を迎えるにあたって、人それぞれのやり方がある。
 たった1日の跨ぎを重要視しない人もいるだろうし、格別なものとして捉える人もいるだろう。
 わたしは1日で世界ががらっと変わるとは思っていないけれど、いいきもちで迎えたいなとは思う。

 今朝出勤する途中、いろいろあったけど今年1年、自分はよくやったと自分を褒めた。
 冷凍庫みたいな空気に包まれている道を歩きながら。
 ほんとうは60点くらいの点数しかつけられないのだけれど、そう思えるようになったことはよしとすることにした。
 これで、わたしの年末仕事は終わりかな。



 今年もここでいろんな人との出会いがありました。
 読んでいただいたみなさん、1年間ありがとうございました。
 また来年も、よろしければおつきあいください。

 それでは、よいお年を。
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-31 13:55 | 一日一言 | Comments(6)

冬の朝がもたらすもの

 今朝は早起きして、チチと京都中央卸売り市場へ出かけた。
 お正月用の食材の買出しのためだ。

 市場には、チチの職場がある。
 小学生のころは毎年夏休みにチチに連れられて市場へ出かけたけれど、年を重ねるにつれて休場日に出かけることが数回あっただけで、なかなか足を踏み入れることができない場所になっていた。

 7時前に市場へ到着し、チチの店で挨拶をしてから、いつもチチが買い物をする店をいくつかはしごした。

 小雨の降る中、無法地帯と化した市場の道を進む。
 ノーヘル、片手運転のバイクが行き来し、私道と公道の区別がつかない混雑。
 水産品の棟を、すたすたと歩くチチの後ろを置いていかれないようについていった。
 急ぎ足ながらも、足元の発泡スチロールに入った魚介類から目が離せなかった。
 河豚、鯖、蛸、牡蠣、鯛などなど。
 これを見たらスーパーの魚は見てられへんね、と前を歩くチチに思わず話しかけた。

 今朝の寒さはまだましだとうちを出たけれど、市場は20分も歩いていると足元から冷えがきた。
 それでも、市場の中に渦巻く熱気を感じた。
 人の動きが作る活気は、確実に寒さを上回っていた。
 人の生々しい力強さがここには毎日あるのだと思うと、飽くことなく何度でもそれを見たくなった。

 市場の中で朝から刺身と鉄火巻きを食したあと、左京区の作業場までチチを送っていった。
 どの通りも、まだ車も人もまばらでがらんとしていた。
 チチを降ろしひとり車を走らせていると、空は少しずつ明るさとともに青さを取り戻し始めた。

 清々しい。
 その言葉が、頭に思い浮かんだ。
 白く青く透明感のある空気。でも太陽の光は、やわらかいオレンジ色。
 今年1番、生命力を感じた朝だった。
 
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-30 15:28 | 一日一言 | Comments(0)

どっち?

 今年は、今年をもう振り返らない。
 さんざん振り返ったから、反省魔のわたしも、さすがにもういいと思ったのだ。

 でもくるりの「JUBILEE」を聴きながら、ふと考える。
 わたしはこの1年で、失ったもののほうが多いのか、得たもののほうが多いのか。

  「失ってしまったものは
  いつの間にか 地図になって
  新しい場所へ 誘ってゆく」


 流した涙のほうが多いのか、笑った数のほうが多いのか。
 ひどい人生だと思ったほうが多いのか、幸せな人生だと思ったほうが多いのか。
 疑ったほうが多いのか、信じたほうが多いのか。

 反省はしなくても、考えてしまったりする。

 今年から来年にかけて引きずる仕事がいくつもある。
 相手があっての仕事で、交渉と並行で進めざるを得ないところがあり、冬旅の予定も組めない。
 失った空きスペースにすっぽり収まるのは、旅かもしくは恋だと相場が決まっているのにな。
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-27 23:55 | 一日一言 | Comments(0)

白い羽

 久しぶりに少し長くベスパに乗った。
 今日はそれほど寒くないからちょうどいいかと思いつつ、それでもダウンとマフラーをしっかり首に巻いて出かけた。

 それでも、木枯らしだけは容赦なく吹いていた。
 道路沿いの木々も吹かれるがままといったふうで、そのしなやかさがちょっと羨ましい。
 べスパに乗るときだけ巨漢になりたいと願いながら、風でハンドルを取られないようにふんばって走った。

 途中、いかにも配達中という感じの三輪のバイクに乗ったおじちゃんに、信号待ちで並んだときに「それ外国製? かっこいいね」と声をかけられた。
 やたら信号待ちで並んでくるので初めは不審に思っていたけれど、あとの一言に思わず元気よく、ありがとーございます、と返した。

 今日はいつになくギアのチェンジがスムーズだった。
 そういう日は、走っていてもきもちがいい。
 広々と視界が広がる、わたしのすきな道を時速70キロで走りながら思い出した。
 ベスパに跨ってスピードに乗って走ると、いつも思うのだ。

 あぁ、わたしは自由だと。
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-24 20:19 | 一日一言 | Comments(6)

微量

 夢を見た。
 久しぶりにリアルで鮮明な夢。

 毒づいていた。
 現実で1度も口にしなかった言葉を、投げつけていた。
 そのあと、肝心な言葉を言い残したと追いかけて相手に言葉をさらに投げかけた。
 あきらめたらあかんで。
 階段の下から、ずっとずっと上にいる相手にそう言った。

 涙が出るかと起きぬけの頭で考えたけれど、不思議と出なかった。

 そう涙は出なかった。
 相手を許す夢を見て、やっと自分を許せたのだと目が覚めて思った。
 そうしてまた、わたしはあと1時間眠れると糸を手繰るようにまた眠りに引き寄せられた。
 次に目覚めたとき、数グラム、いつもの朝より清々しいような気もした。
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-23 23:11 | 一日一言 | Comments(2)

冬の雨

 壁に棚、クローゼット、机、床。
 ためらわず、次々とそうじにかかった。
 15時過ぎには、自分の部屋のそうじはひと通り終えられた。

 アフタヌーンティを飲み終え、暗くなり始めた表の道路をぼんやり窓から眺めた。
 黒いアスファルトの道は、部屋の床と同じように光っていた。
 うちから1歩も出ずにいたから、そのとき初めて外との世界と繋がった気がした。
 
 冬至の今日、1日中外は雨。
 太陽の姿がないせいで、より日暮れが早く感じられた。
 さらに倍! と気前よく日が短い1日。
 雨はまだ続いてる。
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-22 21:00 | 一日一言 | Comments(2)

最後のゴミ袋

 今年ももう少しだというのに、落ち着いてなかなか大そうじができない。
 でも今晩は、と心に決めて帰ってきた。

 A4版の倍くらいの大きさの袋をふたつ用意して、部屋中の抽斗と箱を開けて燃やすゴミと燃やさないゴミに分別していった。

 ときどき手が躊躇する。
 いや、でもこれはもう。
 と、手から離れてゆくものたち。

 そうじの間、部屋には少し大きめの音でチャットモンチーの「生命力」をかけていた。
 音楽に乗ってきもちも上がったり下がったり。

 わたしはすきな人と別れると、連絡先からプレゼント、思いが残っている些細なものまで全部捨てる。
 そうすることで、脱皮するようにできるだけ早く過去から遠ざかりたい。
 でも見落とすこともたまにあって、今日もプレゼントについていたリボンを棚の奥のほうに見つけ、しゅるしゅるとほどいてゴミ袋に入れた。

 きもちの整理ばかりに気をとられていないで、本気で大そうじをしなくては。
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-21 22:30 | 一日一言 | Comments(2)

師走のホーム

 ともだちと飲んで別れたあと。
 駅のホームで特急を10分ほど待っていた。

 なんとなく口寂しくて買った午後の紅茶のミルクティを、両手でくるくる回していた。
 アルコールがちょっと入って、酔ったというほどではないけれどぼんやりしていた。

 そのぼんやりした空気の中を、遠くから聞こえる声がすーっと忍び込んできた。
 初めは自分に話しかけられていると思わなかった。
 でも誰もその声に応えないことを不審に思って、くるりと首を左に回した。

 そこには、わたしよりも若いサラリーマンが立っていた。
 彼は「出町柳へは次のK特急が早く着きますか?」と、わたしに聞いていた。

 はいはいと肯定を力強くするために、わたしは数回首を立てに振った。
 彼は1度納得した様子を見せ、こう言った。

「寝屋川市駅から出町柳行きに乗ったはずなんですけど、なぜかここにいるんです。ホームは間違ってなかったと思うんですけど。」

 彼がなぜわたしにそう言うのか一瞬疑問が頭を過ぎったけれど、酔ったようすもなく不安げなようすはかえってわたしを和ませた。
「ホームのあっち側とこっち側じゃだったんじゃないですか。」
 と、わたしは手振り身振りでそう答えた。
 そう答えながら、寝屋川市駅のホームが初めから離れ離れだということを思い出していた。
 でもそれを正して、突っ込む気にはならなかった。

 わたしは最後に、「出町柳には次のK特急が早いですよ」と口角を上げてもう1度声に出して言った。
 彼は会釈をして、ホームの前方へと去っていった。

 今年も残すところあと10日ほどだからか、23時近いのにホームはいつもより多くの人で賑わっていた。
 わたしはなぜか、もう2度と会わない彼が安心して特急で出町柳まで辿りつけるように、ホームで切に願った。
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-21 01:22 | 一日一言 | Comments(2)

毎夜の逢瀬

 書くときに気をつけていることが、いくつかある。
 その中で1番気を使っているのは、リズムだ。
 書くリズム。読むリズム。
 言葉の使い方や、文章の〆方、そして改行。
 そういうもので、自分もそして読む側の人たちも、読むことに厭きないようにといつも考えて書いている。

 おそらく今の半分の量も本を読んでいないころ、この作家とはリズムが合わないなと感じることが何度もあった。
 話の筋云々ではなく、言葉と言葉、文章と文章の間に感じるぎここちなさ。読むことが息苦しいとさえ思った。
 1度そう感じると、その作家の本は読み返さなかったし、2度と新しい作品に手を出したりしなかった。

 それが最近、5、6年という時間が経つと、意外におもしろいと思えるようになった。
 いい加減なもので最初に抱いた苦手意識すら忘れ、なんとなく手に取って読み返すと、うまく波長が合ったりするのだ。
 大人っておもしろい、積み重ねはやっぱり大切なのだな、と思うのはこういうときだ。

 先月買った1冊の本は、久しぶりにリズムが合わないと感じた。
 もう長いことそういう本を手に取ることはなかったのに、わたしの勘も鈍ったものだと思いながらそれでも読み続けた。
 良薬は口に苦しで、もう少し我慢したらなにか得るものがあるんじゃないかと、好奇心がそうさせたのだ。

 期待なんてしていなかった。
 読み終えることができれば、それでよかった。
 でも読み進めるうちに、「さんご」のきっかけを掴み、なんという文体なのかとすすすっときもちが惹かれていった。

 自分が書かない文章。
 それも、決して。
 でもリズムが合った。
 あぁ、やっと巡り会ったというきもちになった。

 堀江敏幸、その人が書く文体を擬人化したなら、きっとわたしのすきな男性のタイプになるだろう。
 インテリで、物腰やわらかく、ときどき難解ででもユーモアが見え隠れして、感傷的な面もある。
 登場人物に実際にこんな人がいたらなと好意を寄せることはあっても、文体そのものにそんな感情を抱くとは我ながら驚きだった。

 わたしはすきなものにはせっかちにがっつくタイプだけれど、その本はひと月近く枕元に置いて少しずつ少しずつ読んだ。
 まるで、毎夜逢瀬を楽しむかのように。

 もったいぶるって楽しい。
[PR]
by fastfoward.koga | 2007-12-18 21:52 | 一日一言 | Comments(4)