言霊の幸わう国

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 新しい部屋に引っ越すとき、頭を過ぎらないではなかった。
 喪服を持ってゆくかどうか。
 持ってゆくとすぐ着るような、持っていっても無駄になるような、緩く考えた結果、結局決断できずに持ってこなかった。
 それがひと月も経たないうちに実家に取りに戻ることに。
 千里眼でもないのだから、そんな些細な決断ひとつにとらわれてしまうこともないのだけれど、ひとり部屋にいると人生の復習をしてしまう。

 日曜日、転居案内のハガキを作っていた。
 ずぼらして数人の友人の宛名は手書きでなく、シールにプリントした。
 事故に遭った友人も、そのひとつだった。
 昨日、だんだん暗くなる部屋でその宛名に書かれた名を何度も見た。
 何度見ても彼の名で、今日はそのハガキに切手を貼った。
 それはポストには入れず、棺の中に入れてほしいとお願いするつもりだ。

 今日は仕事の合間に彼のことを思い出しては、仕事の手を止めた。
 止まった手は、わたしが意志を持って動かした。
 止まらず動く時間。
 明日はやって来る。
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by fastfoward.koga | 2011-03-28 23:52 | 一日一言

長い長い夜

 ごぼうを切っているときに、電話は鳴った。
 その電話を切ったあと、涙をこらえられないまま友人ふたりに続けて今耳に入ったことを伝え、そのあとぼんやり過ごした。
 気づくと背は丸まり、自然に頭はたれた。
 陽はどんどん傾き、事実関係を確認しようと開いていたPCのディスプレイの灯りだけが自分を照らした。
 ふいに次の連絡があるまで、いつくるかわからない電話を待ってこうしていることに恐怖を感じた。
 灯りをつけ、カーテンを閉め、台所に戻りごぼうを切り始めた。
 もともと低い流し台に向かい、必要以上に背を丸めていることにまた気づいた。

 どうしてこういう出来事は、暖かくない季節ばかりに起こるのだろう。
 電話をかけた友人に、同じような電話をするのは3度目だった。
 そう指摘されて、目の前に一瞬で闇が広がった。

 今朝友人が亡くなった。
 どうして悲しいことは、こんなふうに、しのび寄るようにやってくるのか。

 携帯の調子が悪くなったのは、廊下にばらまかれた消火器の跡を踏んだのは、怖いくらいに眠ったのは。
 どこかに暗示らしきものがなかったか、昨日から今日にかけての出来事をリプレイした。
 今さらサインを見つけても、うれしくともなんともないというのに。

 これから、仕事終わりの友人がうちに帰ったころ、この出来事を伝えなければならない。
 これを書く以外の時間、わたしはじっとカーテンを見ている。
 描かれた模様とドレープの輪郭を、視線で何度も何度も何度もなぞっている。

 夜が、長い。
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by fastfoward.koga | 2011-03-27 23:39 | 一日一言

部屋の記憶

 今日は、仕事を持て余してしまった。
 課長がいないので部長に相談したら、あとはすっかり自分の手を離れてしまった。
 最初から最後まで自分の手におえるような案件だとは思えなかったけれど、どこまでならできたか考えた。
 考えすぎていつもほどくよくよもびくびくもすることはなかったけれど、席を立つのをためらった。
 トイレに行き、鏡を見るのはほんの少し勇気がいった。

 席に戻ってディスプレイと対峙しながら、脳裏に自分の部屋の窓際、カーテンの色と模様が過ぎった。
 恋しくて思い出したわけではないと思う。
 でも同時に、まだ馴染みきらない部屋の匂いが鼻先をかすった。

 ひとり暮らしをする前、こんなふうに自分の部屋や家を思い出すことはあっただろうか。
 そしてわたしは、もう新しい暮らしに慣れたんだろうか。
 そんなこと、どっちもわかったって、なんの役にも立たないのだけれど。
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by fastfoward.koga | 2011-03-22 21:59 | 一日一言

東へ

 昨日夕方、三条あたりを歩いていてあちこちのコンビニや居酒屋の照明が消えていたことに気づいた。
 このへんこんなに暗かったっけと、自然に視線は灯りを探した。

 自粛の意味について、考えている。
 例えば、プロ野球・セントラルリーグの開幕日について。
 選手会はこんなときに試合をするべきではないと延期を主張し、リーグ側はプロ野球選手は野球をするしかないのだから、逆に今試合をすべきだと言った。
 どちらの言い分も理解できたが、気になったのは試合をまだ混乱のおさまらない首都圏の球場で、しかもナイターで開催するということだった。
 未だ計画停電が実施され、節電が呼びかけられている中での開催。
 ネットで関連する記事のどれを読んでも、リーグ側の主張の裏にちらりと傲慢さを感じてしまった。
 収益を義援金にすることは間違いなさそうだし、選手たちの一生懸命なプレーで被災地の人たちを励ましたいという思いに嘘はないだろう。
 それに例えば開幕を延期したとなると、その分試合数を減らさなければ日程が厳しくなり、選手たちの体調管理も難しくなることは想定できる。
 結局は文科省から指摘を受け開幕を4日延期し、東京電力と東北電力のエリアで試合を開催する場合はデーゲームや滅灯ナイターとすることになったものの、後味の悪い結果となった(文科省の後出し指導も気にいらないが)。

 他にも各地のイベントやコンサートなどの自粛が続いている。
 そのことに対する賛同と批判は、みなが被災地の人たちを思ってこそのこと。
 でも今はひとりひとりが、ほんとうに被災地が、そこに住む人たちが、復興するためになにを必要としているのか、考えなければならない。

 なにをどうするのか。
 決めるのは自分だ。

 そうわかりつつも、今わたしはなにをしていればいいのか、休みの間に迷いが生じた。
 そんなとき、FMラジオから流れてきたリスナーのメッセージに耳が反応した。
「被災地の人たちのことを考えるといろんな思いが頭を巡りますが、僕は今までどおりもりもりごはんを食べ、一生懸命仕事をし、稼いだお金を被災地へ義援金として届けたいと思います」
 そうやわ、そう、そうやんな。
 わたしももりもり食べて、明日からまた一生懸命働こう。
 そしてそこから生まれるものを、東へ届けるのだ。
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by fastfoward.koga | 2011-03-21 14:34 | 一日一言

武者震い

 来年度のシラバスが届いた(正確には、今日実家に取りにいってきた)。
 先生から、来年度は授業内容を大幅に見直すと聞いてはいたものの、ここまでがらりと変わるとは。
 そんな驚きとともに、受講したい科目に付箋をつけていたら思ったより多く、ずしーんと心が重くなった。

 いつの間にか卒業制作と仕事の両立だけを考えていたから、他の授業のことをすっかり忘れていた。
 そう、この先は、最後の1年なのだ。
 この1年が終わってしまったらここでもう文芸を学べないと思うと、自分の小さな頭にぎゅうぎゅうに詰め込んででも受講したいものは受けておかなくてはと急にあせりだした。

 できるかな、大丈夫かな。
 シラバスを閉じてしばらくしてから、静かな部屋に自分の声が響いた。

「がんばろ」

 それしかない。
 それ以外、なにがあるという。
 さあ、このまま年間計画を立てることにしよう。
 くー、武者震いするぜ。
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by fastfoward.koga | 2011-03-19 22:00 | 一日一言

2月の巻

1  須賀敦子   須賀敦子全集第3巻
2  朝吹真理子  流跡
3  星野道夫   ぼくの出会ったアラスカ
4  モーパッサン
            モーパッサン短編集Ⅱ
5  小沢健二   うさぎ! 沼の原篇 中期


 昨年6月に行った小沢健二の奇跡のライブ。
 そこで買った『うさぎ!』のシリーズは、ちょびちょび寝る前に開いていましたが、当時は書いてあることが遠い世界のことのようで、なかなか読み進めることができませんでした。
 それが突然今年に入り、気づくとするするとオザケンの書く文章が頭に入ってくるようになりました。
 
 本っておもしろいなあと思います。
 何十年、何百年経っても同じことが書かれているというのに、開いたそのときの自分を鏡のように映すから、読んでいる自分を自分で、今こうなんだなあと気づかせてくれます。

『うさぎ! 沼の原篇 中期』には、食品会社がお金で買った研究結果に基づく商品販売、そもそも豊かさとはなにか、そんなことが書かれています。
 他には、カーナビや様々な電気製品でよく耳にする女性の声はいつでも丁寧にいろんなことをわたしたちに教えてくれるけれど、いつか人の判断を鈍らせるようになるんじゃないかなどという話題があり、少し前なら、ふーんそんなことを考える人が世の中にはいるんだなときっと思っていました。
 それが不思議なことに、今では書かれていることについて、それはいったいどういうことなのかと考えるようになりました。
 書かれていることのすべてが正しい、そう思っているわけではありませんが、わたしも疑問をもつだけの知恵はついてきたのでしょうか。

 疑問を持つ。
 世の中にはまだまだ知らないこだけでなく、不明瞭なこと、理解不能なことが多いのです。

 いつまでも考える頭を持っていなくてはならないと、思った1冊でした。
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by fastfoward.koga | 2011-03-18 22:28 | 本の虫

エールを

 部屋に帰ってきたときの匂いが、まだ自分のうちの匂いだと感じられない。
 シャンプーも石鹸も香水も歯磨き粉も、みな同じものを使っているのにどうしてなのか。
 あ、洗濯用洗剤か柔軟剤が違うか。
 そんなことを考えながら、今洗濯機を回している。

 定時でうちに帰れない日が続くと、いつご飯を炊こうか、いつ洗濯をしようか、そんなことばかり考えている。
 慣れない自炊も手際よくするために、毎朝用意するお弁当でも無駄がないように。
 毎晩灯りを消して目を閉じるほんの少し前、まだ見慣れぬ天井を見つめ、生活するとはこういうことなのだと思っている。

 今まではなにからなにまで両親に依存し、わたしは自分のことだけ考えていればいいと心のどこかで思っていた。
 ひとり暮らしをすれば誰もが通る道なのだろうが、今さらながら親のありがたみを感じたり、誰かと一緒に暮らすことのぬくもりを思い出している。
 自分ひとりの世話なのに、生活するって大変。
 そんなことを、ラップにくるんだご飯を電子レンジで温めながら思う今日この頃。

 でも当たり前の生活をできるだけ自分はいいほうなのだと、テレビから流れる被災地の様子を見ると思わずにはいられない。
 今まであったものがある一瞬を境になくなってしまう。
 いるのが当たり前だった人がそばにいない。
 毎日を一生懸命踏んばって過ごしている人たちのことを思えば、洗濯機が回る音を気にしながら暖かい部屋にいる自分は沈んでなどいられない。

 地震発生以後、職場の雰囲気は一転した。
 もともと年度末が近い上に、4月にひとつの転機を迎えることもあり忙しくなることはわかっていたが、別の忙しさがやってきた。
 被災した東日本エリアをカバーする仕事が回ってきたのだ。
 次々と上司からオーダーが入り、目も頭も回るような毎日だけれど、この町で自分にもできることがあるということ、それがずっとやってきた仕事だということ、そのことが少し自分を強くしているような気がする。


 ひとり暮らしはどう? と心配してくれたみなさま。
 意外にがんばってやってます。
 どうも、ありがとう。

 そして地震以後、元の生活にまだ戻れていない方々、わたしはここからみなさんを応援しています。
 どうか挫けず、もう少し踏んばってください。
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by fastfoward.koga | 2011-03-17 22:18 | 一日一言

祈る

 大地震のニュースを、ただじっとテレビで見ている。
 亡くなったかたのご冥福を祈るとともに、あとはただただ、少しでも被害が最小限ですむように、たくさんの人が無事であるように願うだけ。
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by fastfoward.koga | 2011-03-12 23:22 | 一日一言

朝の光

 ひとり暮らし2日目で、朝帰りをした。
 早朝の京都タワーを見上げ、まだ人もまばらな京都駅の改札を抜けホームに停車していた電車に乗り込む。ドア横のシートに越しかけなにげなく車内を見回したら、是枝監督の次回作『奇跡』のポスターが目に止まった。この映画の主題歌はくるりが歌っている。タイトルは、映画と同じ『奇跡』だ。
 コピーを端から端まで読みながら、今ここでこのポスターを見ていることも奇跡みたいなもんだなと、わたしは前夜の夢のような時間を思い出していた。

 引っ越し2日目、14時半で仕事を終え、わたしが大急ぎで目指したのは新大阪駅だった。予定どおりの時刻の新幹線に乗り込んだあと、新大阪から京都までの見慣れた景色の短い間に、前日の夕方、手伝いに来てくれた友人と両親が帰ってしまってからずっと漂っていた寂しさについて考えていた。やっぱりひとり暮らしを始めるとこんなもんだとわかってはいたのに、まとわりつくようなその感情は振り払うことはできなかった。それでもじいっとうずくまるように考えていたら、途中でふと今自分が感じているのは、寂しさではなく心細さからくる憂鬱なのだと気がついた。
 掻き消そうとしても消えるものではない。おさまるまで待つしかない。
 腹はくくってみたものの、時間が解決するしかないのかと思うと、それはそれでまた憂鬱の種になった。それでなくても、まだダンボールの片付かない部屋で迎えた初めての夜はなかなか寝付けず、体は疲れているのに眠れない憂鬱さがどこまでも付きまとい、頭はぼんやりしていた。
 ここで少し眠っておかなくては。そう思うまでもなく、京都を過ぎるとすとんと眠りについた。

 東京駅へ着いたのは、18時前だった。前もって調べていたとおり大手町駅から半蔵門線に乗り換え、九段下駅で下車した。ホームに降り立つと、同じ目的を持つ人だとわかる集団にあっという間に飲み込まれた。
 目指すは武道館。待っているのは、くるりだ。
 このライブのチケットを予約したときには、まだ引っ越しどころか、ひとり暮らしをするかどうかすら決まっていなかった。でもこの日までのすべては自分で決めたことで、途中1度はチケットを誰かに譲ることも考えた。けれど届いたチケットに記された座席番号を見て、行こうと思い直した。
 それでも心のどこかで、自分はなんてあほなことをしてるんやろ。そう何度も思った。
 ひとり暮らしの引っ越しの翌日にトーキョーへ行き、その日のうちに夜行バスでとんぼ返り。トーキョー滞在時間は5時間強。誰かにあほやな、おばかさんやな、そう言ってもらいたいと思いながら、きもちも道も迷うことはなく武道館へ辿りついた。

 武道館は、2度目だ。以前もやっぱりくるりのライブを見に来た。
 そのときも感じたけれど、武道館は広くて狭い不思議な場所だ。でも今回は前回より、どちらかと言えば狭く感じた。なぜなら、席がステージに近かったのだ。
 座席は悪くはないとわかってはいたものの、いざほんとうに座ってみると、1月に見た名古屋のライブハウスよりもステージまでの距離は近かった。頭を左右に振らなくてもメンバー全員が視界に入り、表情だって見える。もうそれだけで数時間前まで感じていた憂鬱が薄れ、高揚感が体の底から湧いてくるのがわかった。
 そわそわして何度も周囲を見渡す間に時間は過ぎ、ライブは19時15分ごろ始まった。

 岸田くんを先頭にさとちゃん、boboさん、フジファブリックの総くんが登場し、歓声が沸いたあと観客はみな第一声、第一音を待った。
 流れてきたのは、アルバム『言葉にならない笑顔を見せてくれよ』の1曲目、『無題』だった。岸田くんが爪弾くギターの音が武道館の隅から隅まで響き渡り、わたしは思わず天井を仰いだ。吸い込まれる音が、きもちよかった。
 2曲目は『目玉のおやじ』。サビにいくまでに、ステージ上で岸田くんと総くんが視線を合わせ笑った。それを見たとき、これはいいライブになる。そんな確信を持った。
『コンバット・ダンス』、『ハヴェルカ』と続き、照明が急に明るくなった。あっと思うのが早かったか、音が先に耳に届いたか、始まったのは『ワンダーフォーゲル』。今まで何度も聴いてきたあのイントロで、あーやっぱり来てよかった、来たのは間違いじゃなかった、そう実感した。
『鹿児島おはら節』が終わって、1度目のMC。確かここで岸田くんとさとちゃんが、武道館でライブをするもの今回4度目で、やっとリハーサルのときに舞い上がらず天井にぶら下がっている日の丸をちゃんと見られたと話していた。たかが武道館、されど武道館。やっぱり武道館は武道館なのだ。
 そしてその武道館を「極上のぬるま湯にしてみせます」と岸田くんが宣言し、ステージに置かれた吉田戦車のイラスト入りの行灯に灯りがともった。『温泉』は、大きな会場をほんわかした空気で包んだ。
 次の『さよならアメリカ』では、総くんのギターソロに聴き惚れた。みやこ音楽祭、名古屋、そして武道館と3度聴いたけれど、今回が特上だった。
『Fire』、『犬とベイビー』。ステージはテンポよく、進んでいった。
 MCをはさんで『魔法のじゅうたん』が流れ、そこでライブに集中していた頭が突如覚醒したかのように1ヶ月間の自分自身のことに切り替わった。何度も何度も聴いてきたその曲の意味が、言葉になっていないのに、自分の体の奥のほうでわかったわかった、とサインを出してきた気がした。あほやなあと思いながらやってきたトーキョーだったけれど、、自分が選び取ったひとつひとつのことには意味があるのだとちょびっと泣きそうになった。今頭を動かしている自分はなにひとつ掴んでいなくても、わかったと言う自分が奥にいるならそれでいいか。曲を聴きながら、そんなことを考えていた。
 次の『麦茶』で、アルバムの曲はほぼ終了。今日はいったいどんなセットリストを考えているのかと勘ぐっていると、ステージではスタッフとメンバーの動きがあわただしい。なにをやるのか期待していたら、なんと岸田くん、さとちゃん、総くんが小型カメラをそれぞれギターとベースに取り付け、手元をスクリーンに映し出すという! 岸田くんが「ここからはテクニカルショーです」と言うと、さとちゃんは目をむいたあと大爆笑し、総くんは岸田くんから「早弾きやって」とむちゃぶりされてその手元がアップになってステージに映し出されても逆らうこともせずやってみせ、ハードルを上げるだけ上げて始まったのが『飴色の部屋』、そしてさらに盛り上がったのが『青い空』だった。
 たった2曲だったけれど、今までにないパフォーマンスに観客みんなが大喜びした。
『ブレーメン』、『モーニングペーパー』、「ここで、これがやりたかった」と岸田くんが言った『東京レレレのレ』と続き、音が鳴る前に、あっやる! とわかった『ロックンロール』。ここでもわたしはいつものように、そこに青空が見えるかのように天井を仰いだ。
 そこで本編は終了。ここまでいつもより曲数が少なかったので、アンコールではどの曲をやってくれるのか、逆に期待は膨らんだ。

「みなさんと過ごすこの時間はプライスレスですが、この時間を過ごした記念を買うっていうのはどうでしょう」と、アンコール前のいつもの物販紹介でさとちゃんが笑いを誘う。
 その後ろでは、キーボードやパーカッション、マイクスタンドが3本次々運び込まれ、武道館はやっぱり特別な場所なんだなあと思った。
「もうしばらくくるりの旅におつきあいください」という岸田くんの言葉で始まったアンコール1曲目は『ハイウェイ』。チオビタのCM曲『旅の途中』。途中からコーラス隊で久々のサスペンダースが登場し、来月公開の映画『まほろ駅前多田便利軒』の主題歌『キャメル』が歌われた。空いたままのキーボードとパーカッションと残り時間と曲数を少し気にしつつ耳を傾けていたら、次の『ばらの花』でキーボードに世武ちゃんが登場。そしてようやくパーカッションに、タナカユウジさんがステージに現れた。
「大勢で演奏するのは楽しいね」と岸田くんが言っていたけれど、全員集合したステージは本編とはまた違う賑わいが客席から見ていても楽しげで、贅沢なアンコールだった。そしてその証拠に、このあと演奏された『さよなら春の日』は史上最高だった。
 もともとこの曲は大すきだけれど、どこか別の世界へ連れてゆかれるような音だった。ふわあっと立ち上る香りのように、音はどんどん広がっていった。毎度のことながら、この時間が永遠に続くわけはないとわかっていながら、続いてくれたらいいのにと願わずにはいられなかった。
 続いて岸田くんがバンジョーを手にした。曲は、『リバー』。その途中で、ふいに視線が上がった。目の前にはくるりがいる。そこからさらに見上げると、天井から手を広げるように緩やかに描かれた曲線が、大きなおうちのようだった。
 日本でも世界でもさまざまなことが今起こっているけれど、くるりの奏でる音が鳴っているこの空間はほんとうに幸せな場所で、そこにいられることにただ感謝した。
 そんなステージの最後の1曲は、『奇跡』。歌詞を追いかけることはせず、曲全体の世界に身を委ねた。
そう、その音楽は厚い層でできていて、座り心地のいいイスに腰かけるようにきもちが緩んだ。メンバーひとりひとりが奏でる音に、歌う声に、うっとりした。

 京都に戻ったわたしは、まっすぐ部屋に帰った。玄関を開けると、部屋からはまだよそよそしい匂いがした。それでも、帰ってきたというきもちになった。
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by fastfoward.koga | 2011-03-10 22:30 | 一日一言

冷蔵庫に牛乳入りました

 ひとまず、引っ越しが終了。
 まだダンボールに詰まったままの荷物があるけれど、とりあえず生活はできそう。

 自分をとりまく世界のすべての人とものに感謝しつつ、今日はバタンキュー。
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by fastfoward.koga | 2011-03-06 21:25 | 一日一言