言霊の幸わう国

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頭の中の物語

 土曜日、今年度になって初めて大学へ行った。
 卒業研究という最後の大仕事、書き始めた小説の添削後の面談のためだ。
 指定されたのは朝10時。持ち時間は30分。
 前週に東京で同じ面談を受けた学友から様子を聞いて、数日前からただただ憂鬱になっていた。
 がしかし、ふたを開けてみれば30分なんてあっという間。
 担当教官のふたりの先生も、作品の構想などはもともと好意的に受け取ってくれているので、想像していたような身も凍るほどの思いはせずにすんだ。

 これまで数回にわけて提出した課題。
 奇をてらおうと思っていたわけではないけれど、せっかくだからチャレンジしなくてはという気負いから出た文章は、なかなか受け入れられなかった。
 これまでは、模索しながらの結果なのでこんなものかと痛い思いをしながら、評価は甘んじて飲み込んでいた。
 しかしながら、前回提出したときにはほぼまる2日で1万字と少しを書き上げたのだけれど、長く書こうとすると付け焼刃の技術と言葉では思ったものは書けず、結局はいつもの自分のトーンに戻してみた。

 少しおもりをつけて、あえてきもちが沈んだところから書き始める。
 自然に高揚するまでは無理はしない。
 もともとが根暗なのだ。
 鬱々とした思いになんてすぐになれる。
 集中して、主人公に自分を乗り移させた。

 今回の面談で、文字数について3万字くらいに押さえたいと発言すると、先生はシラバスに書かれている制限文字数を超えても構わないと言ってくれた。
 隣にいたもうひとりの先生も、隣で目を大きく開いて頷いていた。
 勝手ながら、構成などはさておき、文章そのものはそのくらいの長さになっても読むに耐えられると言ってもらえたのだと判断した。

 物語はまだ始まったばかり。
 でももう半年もしたら、物語は出来上がっていなければならない。
 自分の毎日ですらあわただしくしか描けていないけれど、そこまでうまく辿りつけるだろうか。
 とりあえず全部頭の中にある物語を文章に起こしてみたい。
 そんなことを静かに今、思っている。 
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by fastfoward.koga | 2011-05-30 22:21 | 一日一言 | Comments(0)

リバーサイドビル

 今日は部長にこってり絞られた。
 久しぶりに出張から帰ってきた部長は朝からご機嫌で、でもそのご機嫌はわたしには関係ないんよなーと思っていたら、ほんとうに関係なく。
 わたしと課長は、かやの外にいた。

 叱られた要因はいろいろある。
 それに、いちいちを確認しても、判断を仰がないのも、どちらもどうせひと言言う人なのだ。
 どっちにしても結果が同じだとは言わないけれど、問題点を挙げてゆく中で失敗の要因を人のせいにはしたくはないなと、帰り道すがら考えていた。
 
 潔く間違いを認めたせいか、くよくよしたり落ち込むほどのダメージはない。
 でもいつもなら立ち止まらず右折して先の信号まで歩くところを、足が止まった。
 赤信号の間、視線は向かいのビルのてっぺんに。
 そこで初めて、ビルの名前を知った。

 息苦しくなると空を見上げる癖は、学生のころからほんとに変わらない。
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by fastfoward.koga | 2011-05-24 22:20 | 一日一言 | Comments(0)

4月の巻

1  フランツ・カフカ
            カフカ・セレクションⅡ 運動/拘束
2  新井敏記   SWITCH STORIES
3  山崎ナオコーラ
            人のセックスを笑うな ※     
4  伊藤たかみ  八月の路上に捨てる ※
5  津村記久子  ポトスライムの舟 ※ 
6  島本理生   シルエット ※     
7  吉田篤弘   つむじ風食堂の夜 ※

※印は、読み返した本です。


 小説ってどんなんだったけなあと、先月は、実家から持ってきた本の中から手当たり次第に読みました。
 ひとり暮らしをするにあたり今の部屋に持ってきたのは、6分の1もあるでしょうか。
 やっぱり物足りなさを感じずにはいられません。
 せめて今の2倍の本棚があれば・・・。
 というのは、贅沢でしょうか。

 マンガに雑誌、辞書にガイドブック。
 引っ越しに際して購入した本棚は、すべてを詰め込むには不十分でした。

 く~っ、未だ壁一面の本棚はまだまだ憧れです。
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by fastfoward.koga | 2011-05-23 21:25 | 本の虫 | Comments(0)

鈍色の海

 10日ほど前だろうか。
 4月に提出していた卒業研究の添削が返ってきた。
 まだ物語の途中までしか書かれていない小説。
 その先を書くために土曜の朝京都を発ち、出雲に行ってきた。

 見たかった島根の鈍色の海。
 にびいろ、にびいろと、主人公と同じように口の中で唱えながら出雲の日御碕に立った。
 昨晩降った雨は朝にはやんでいたけれど、沖にはまだ重く沈んだ雲が見えた。
 
 柵がないので、大丈夫そうなところまで海に近づいた。
 うみねこが飛ぶ姿は、飛べない人が見るせいか、きもちよそうだった。
 目を閉じると波が岩にぶつかる音と、うみねこの鳴き声が遠くに聴こえた。
 風に体温を奪い去られる前まで、ずっとそうして立っていた。

 来てよかった。
 思わず口をついた言葉は、すぐに風に乗って消えた。
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by fastfoward.koga | 2011-05-22 23:12 | 一日一言 | Comments(0)

リピート

 毎日毎日、仕事はやってもやっても片付かないし、終わらない。
 会社を出ると、駅までの道すがら、自分の中にあるものが日に日に磨耗していることに気づく。
 
 なんだろう、なんだろう。なにが磨耗してるんだろう。

 考えてもわからんわからん。
 わからんから、気づくと沖に流された小船をゆっくり戻すような小波をいくつもいくつも頭に描く。

 寄せては返し、寄せては返し。
 眠りにつくころ、彷徨う小船が静かに静かに帰ってくることを願う。
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by fastfoward.koga | 2011-05-18 23:14 | 一日一言 | Comments(2)

進め進め

 着替えをすませたところで、心は決まっていた。
 その決意が、家を出ようだったのか、ここを離れようだったのかわからないけれど、とにかく周囲に気づかれる前にときもちは急いだ。
 身につけたのは黒いワンピースに、黒のレギンス。
 その姿を初めに見つけたのは、兄だった。
 でもわたしの目に映ったのは、男ではなく女だった。
 まっすぐすとんと落とした黒髪の女性だった。
 その目をあまり見ないように、足早に部屋を出た。
 玄関では、逃亡するにはあまりに身軽な格好と荷物の自分に思わず自問自答し、履いてゆくならと一番馴染んだ先のとんがった黒い革靴を選んだ。
 早く早くと、気はあせった。
 白いベスパにまたがったわたしは、果たしてヘルメットをかぶっていただろうか。
 黒いマフラーを手に、わたしを呼ぶ母の声。
 その手の中にある毛糸のマフラー。
 そこで初めて自分の首元がすーすーしていることに気づき、その肌寒さにこの先心細さを覚えそうな予感がしたけれど、エンジンをふかした。
 母と目が合う。
 小さな瞳が、悲しんでいるように見えた。
 でもわたしは母を避けるようにハンドルを切り、アクセルを回した。
 手を伸ばせば届いたはず。
 でも母は、そうはしなかった。
 わたしは、母の脇をすり抜けた。
 通りを右折すると、道路に座り込んだふたりの男性の姿が見えた。
 赤い洋服の男と青い洋服の男。
 すごく酔っ払っている男と、少し酔っている男。
 からまれそうな感じはしなかった。
 でも話しかけられたくはない、そう思った。
 男たちが座り込んでいる右側は歩道、左側はなぜか川になっていた。
 面倒なことには巻き込まれたくないと、なぜかわたしは男たちすれすれの左側を選び、ベスパごと川に落ちた。
 タイヤが水に沈み、バランスを崩し横倒しになって左肩から水に浸かった。
 なぜだろう。
 結果を予想していたかのように、嫌悪感も反省も後悔もなかった。
 あーあ、と体はスローモーションで沈んだ。

 今朝そんな夢を見て目が覚めて、時計を見ると4時50分だった。
 手の甲で首元をぬぐうと、じっとりしていた。
 逃げるように家を離れようとした感情がまだ胸に残り、しばらく呆然とした。

 久しぶりに見た夢のリアルさに、なにを意味するのか気になって「バイク、黒、靴、母、川、逃げる、落ちる」をキーワードにして夢占いで検索をかけた。
 原動力、自立、逃避、恋愛の転機、変調、不安。
 夕べ友人と交わしたメールの内容と月9ドラマが見事に刷り込まれていた。

 並べてみただけでは、吉凶どちらを告げる夢なのかわからない。
 けれど、黒のキーワードにはこんなことが書かれていた。

 黒は不吉なことを表わす。でもそれを乗り越えるパワーを持っていることも示している。
 自分がその黒からどんなことを感じたか。自分なりの解釈を。

 夢の中でわたしが自分が身につけた黒から感じていたのは、意志の固さ。
 数ミリの迷いを退ける強さ。

 だから、前に。
 今、アクセルをふかせ。
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by fastfoward.koga | 2011-05-10 22:19 | 一日一言 | Comments(2)

楽しみはこれから

 長いゴールデンウィークの間、なかなか消せなかったテレビを夕方になって消した。
 代わりにandymoriを鳴らしながら、こまごました用事を済ませた。
 陽が傾き始めたころ、お腹はすいていなかったのでお弁当用のおかずを先に作ろうと台所に立った。
 コンポのボリュウムを少し上げる。
 何度もくり返し聴いても飽きないその音に背中を押され、切ったり炒めたり煮たりする。
 途中から調子が出てビールを片手に調理をし、その1本で夕飯まですませた。
 そのあとは、DVDに切り替えてフジファブリックのPVを見ながら、時刻表とガイドブックを手にした。
 毎度のことながら、『若者のすべて』を聴くと、その切なさから机につっぷしてしまう。
 机と胸の間に広がるのは、路線図。
 気を取り直して体を起こし、視線で路線をなぞる。
 昨年の晩秋以降旅はご無沙汰しているから、まだ旅心は覚醒していないようだ。
 そういうときは無理をしない。
 呼ばれているから、行く。
 とりあえず準備を始めよう。

 ゴールデンウィーク最後の夜に、旅支度を始められるこの幸せ。
 よきこと、よきこと。
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by fastfoward.koga | 2011-05-08 20:56 | 一日一言 | Comments(0)

欠落と渇望の先に

 2ヶ月間、生活と生活することを考えていた。
 ひとり暮らしすることを会社ではほとんど口にしていなかったから、生活に変化があったことを悟られないことはいつしか重要なことになっていた。
 安易に外食しないこと、お昼のお弁当を作ること、着たい洋服をいつでも着られるようにすること。
 それは意地だった。
 誰に見せつけるというものでもないのに、ひとり暮らしを後悔するようなことにならないように、心を砕いていた。
 それを含め初めてだというだけでいろんなことがもう新鮮で、生活することとそう感じている自分を楽しんだ。
 でもそういう時期が永遠に続くわけはなく、ぽつりぽつりと思考が途切れ始めた。

 この間読んだ、雑誌『SWITCH』創設者の新井敏記著『鏡の荒野』に、書かれていた言葉。
「きっと本当に満たされていると、人は旅をする必要がないんです。彼らは朝起きて漁師たっだら釣りに行く、農家だったら畑を耕す。そうして一日が終わり一年が終わり十年が過ぎていく。ここで生まれてここで死んで、そうして人生が巡っていくことを本能的に知っている。土地に根ざして生きている人は強い」
 この言葉を、わたしは実際に自分の耳で聴いていた。
 昨年11月のスクーリングでのことだ。
 この言葉には、まだ続きがある。
「その尊さを旅人はどこかで恐れ、拒否してしまう。彼らは『ここではないどこか』を求めて歩く。そんな場所はないと知りつつも探さずにいられない。『どこか』が『ここ』になるとまた違う『どこか』を目指す。延々にたどり着けない『どこか』があると信じて歩く。それはある意味では欠落だし、渇望を抱えていることでもある」
  
 授業中、それならばと思っていた。
 旅に出られるなら、欠落していてかまわないと。
 いつまでもどこまでもここではないと旅に出るなら、どこにも根ざさず生きてゆこうと、小さな決意が胸に芽生えていた。

 ひとり暮らしは、始めてみると旅のように感じた。
 でもそれは等価ではなく、あくまでも近似。
 一瞬ここに自分は留まるのだろうかとも考えたけれど、根ざしはできない。
 やっぱりそれはできないのだ。

 今日五分袖のパーカーを着て、今シーズン初めて手袋をせずにベスパに乗った。
 初夏の風はそよそよと吹き、肌と洋服の間を通り抜けていった。
 この風はどこから吹いてくるのか。
 風上にあるものが見たい。
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by fastfoward.koga | 2011-05-08 00:08 | 一日一言 | Comments(2)

今日の続きは明日

 数日前に読んだ言葉を探して、栞が挟みっぱなしになった文庫本を捲る。
 だが、捲れども捲れども、目当ての言葉は見つからない。
 読んでいた光景は思い出せるのに、肝心の中身が手からするりとこぼれ落ちた。

 流しの消臭にと落としたペパーミントの香りが、鼻腔に届く。
 ああ今日も眠くて眠くて仕方がない。

 探しものの続きは、明日以降にしよう。
 カレンダーどおりのゴールデンウィークはまだ折り返し前。
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by fastfoward.koga | 2011-05-02 23:17 | 一日一言 | Comments(0)